1 骨髄移植


 骨髄移植という言葉自体はご存知の方が大半ですよね。
その移植には「ドナー」は必要不可欠な存在であり、移植が患者と医療者とのチーム治療だと言うならば、その影の主役。
それがドナーであると私は思っています。いや、主役って言うのは言い過ぎかな・・・。(笑)
でも、ドナーなしで移植が出来ないことは事実であるし、だからみんなドナーを増やすためにがんばっている。

 自分という存在が、絶対に必要で、確実に役に立つ

ありがたいですよね。
大げさに言えば、人として生を得て、これ以上の幸せってあるんだろうか?
と、まぁこんな風に考えられるようになったのも、今だからで、ドナー当時の私はそんな幸せかみしめる余裕はなかったですけど。
その時の私は、そんなことはどうでもよくて、とりあえず移植が成功してくれればそれで良かったから。

 さて、前置きが長くなりましたが、コレが実際に私が経験した骨髄移植のドナーについてです。

 
                       
          



 @説明 

 まず、ここからです。
ドナーとして、これから何をするのか、何をされるのかを説明してもらいました。
私の場合は患者が姉なので、説明も色々複雑化するのですが、先生の説明はとても分かり易く親切・丁寧。
バンクドナーさんでいう、最終同意の場のようなものですね。
ただ、やはり「最悪の場合」についての話がどうしても多かったように思います。

  こぼれ話し その1
 まぁ、骨髄移植のドナーは、全身麻酔での採取ですので、始まる前に眠らされ、起きると終わっている状態で、言ってみれば移植時は眠っているだけで、主治医曰く「その間に、僕達が色んな事します」」だそうで、思わず「色んなって・・・」って呟いてしまったけれど、ホントにそうだから・・・。(笑)
ちなみに、ここで私がされて一番嫌だった話は全身麻酔のタメにぶっとい管を口から入れられるのだけど、その時に「まぁ、前歯が折れる人もいます。」って言われたことでした。
「え?前歯?が、折れるんですか?」って恐る恐る聞くと「はい。折れます。」え?・・・断言?
かなりブルーになったけど、色んな人に聞けばそんな3人に1人は折れる・・・とかそんな話じゃないし、要は麻酔医の腕次第らしい。
 結論として、今、私の前歯はちゃんとありますけどね。(笑)



  A健康診断 

 私は移植が血縁者同士でのことだったので、患者と同じ病院に入院することが決まっていました。
だから当然健康診断も、同じ病院で行いました。
N医大と言えば、奈良では大きい病院ですから、検査って言っても結構大変で1日ぐらいは潰れちゃいます。
だから、2日に分けて行ったんですが、2日に分ける理由は時間的なことではないのですけどね。

  こぼれ話し その2
 ちなみに、私の場合は担当の先生が「私の爺や?」っていうぐらいどの検査も付き添ってくれたので、時間的にも早く大病院を歩き回るわずらわしさもほとんどありませんでした。
ありがとう、先生。(*^_^*)
ちなみに、先生は受付に並ぶ時、横入りしようとして患者さんに怒られていた・・・。ワハハ。←?




  B自己血採取 

 健康診断を2日に分けた理由は、多分これにあったと思います。
要するに、移植の時、骨髄液を1リットルほど採取するので、ドナーの体が貧血をおこしてしまう。
それを防ぐ為、輸血しながら採取するようです。
それならわざわざ他人の血液をいただかなくても自分のをあらかじめとっときゃいいやと。
通常、私の体重だと献血しに行っても200リットルしか採られないのだけど、それだと全然足りないので1回に400リットル採取。
「貧血になるはずだ・・・」と思いこんでた割りに、いたって元気でした・・・。
ただ、いくら元気でも、データ的には一応「貧血」になるから、この2度の自己血採取は中1週間あけて行います。
だから、移植日から2週間前に1度目、そして1週間後に2度目、その1週間後が移植・・・という感じ。
ドナーの体が万全の状態で、移植日を迎えるわけです。



 C全身麻酔相談所 

 ここは、全身麻酔について不安がある人や、少しでも危険を感じる人が相談出来るところです。(そのまんまやな)
私は喘息を持っていたため、相談してみた方がいいとのことでここへも行きました。
  *通常は、喘息を持っている人は全身麻酔時に挿入する管で気管支が刺激され、
   喘息を誘発する恐れがあることからドナー登録は出来ないとされています。
   私の場合は、それが主に小児喘息だったためと、最近の発作がなかったことから
   認められましたが。

 全身麻酔についての詳しい説明と、一人専属の麻酔医が移植に付き添うため危険は極めて少ないが、念の為喘息の予防薬を処方してもらいなさいと言われました。
ちなみに、ここでさらに全身麻酔についてのみ、詳しく質問をしました。
採取終了後、まず、「○○さん。」と、名前で呼びかけドナーの意識が戻ったことを確認してから、管は抜かれます。
だから、初めに意識を戻される時は管はまだささっていて、少し苦しい感じがあるが、すぐに管を抜くので大丈夫だと言われました。
でも、この間のことを覚えていない人も多く、高齢になるほど覚えていないそうです。
「20代前半とかだと、残念ですが8割方覚えておられますね〜。」と、冗談交じりに言われましたが・・・。

  こぼれ話し その3
 ちなみに、ここでも気になるのは前歯のことばかり・・・。(なんて気楽な奴)
先生の机の上にドカッと置いてある、大きな鉄の塊が気になって仕方なかった・・・・。
あれか?それともこれか?いや、口から入れるのだから、きっとあれだろう・・・とか色々想像しながら思いきって母が質問。
「ハッハッハッ!そりゃ、コレが入るのだから前歯ぐらい折れるよ。」と先生が持ち上げた塊は私の想像を絶する大きさ。(/_;)
泣きそうな顔をして先生に「先生は前歯折っちゃったことある?」と聞くと、「まだ、ない。」そう。まだ、ないのね。
先生が言うには、挿入時、意識はすでにないけれど、無意識で抵抗してしまう人がいるのだとか。 
無意識ならではの強大な力でその塊と戦おうとするのだから、前歯ぐらい折れるわな。(笑)
前歯のことばっかり言って申し訳ないけど、重ねて言わしてもらうと、折れることなんてほとんどないそうです。




 D入院・移植前夜 

 昼過ぎ入院だったと思いますが、これは通常移植の前日です。
まぁ、2日も3日も前からいたって、退屈なだけですけどね・・・。(笑)
主治医がご挨拶に来てくれて、(私にとって)重要な人物も来てくれました。そう、麻酔医です・・・。
そして、簡単な説明、明日何時に迎えに来るよとか、そんな感じの話をして「早く寝るように」と言われました。
その際、右手の甲に四角いテープを剥がれないように貼って寝るように言われ、これがなんと麻酔なんだそうです。
意識を落とす注射を手の甲からするのですが、手の周辺は注射されると痛いんですよね。
やから、前の日からこんなものを貼って、痛みを少しでも和らげてくれたのでしょうか。想像だけど。

 ちなみに、先生に「採取後ってどれくらい腰痛いの?」って聞くと、「一般的にみんなよく言うのが『金属バットで腰を殴打された感じ』
げぇ〜!そんな事されたことないから、どれくらいか全然分からん・・・。
要するに、イメージ的に「めっちゃ痛いねんな」と認識しておきました。



 E入院・移植当日 

 朝から看護婦さんがやってきて、浣腸をされてしまいました。(/_;)
採取中は当然意識はないわけで、尿は管通せばそれでいいけど、便はねぇ・・・。
無意識でされたらたまらんという事なんだろうけど、しかし、浣腸は苦しいね。我慢出来ないっつぅ〜の。(失礼しました)
で、すっきりさせたあと、手術室にベットのまま向かいました。
手術台に乗せられて、オペ服の先生達がなんやらかんやら言いながら、右手のテープを剥がして注射を・・・。
「痛くないですか?」と聞かれうなずくと、「麻酔がよく効いてる」・・・・と、ここまでしか記憶はありません。

 次に起きたのは、病室のベットの上でしたが、麻酔のせいかその後の時間の経過と記憶が曖昧です。
つまり、見事20代のくせに管抜かれる時のことを覚えていない2割に入ったのでした。(/_;)
いや、うれしいのですけど。いや、ほんとに。
 家族が言うには、目覚めてすぐ何をされたか全部話して、ついでに文句まで言ってまた寝たそうです。(笑)
目覚めた時は、腰から下の感覚があまりなく、「あれ?寝返りってどうするんやったっけ?」と真剣に悩んだほどで。
自力で起き上がることは絶対無理やと思えたけれど、麻酔がまだ効いているので痛みはほとんどありませんでした。
息が少し苦しくて、「喘息が出る!」と言ったようで、酸素吸入されていたし・・・。
そして、なんか気がつけば泣いているから自分でびっくりして、「先生、私泣いた?」って聞くと、「い〜や。」
可笑しいなぁ〜と思ってたら、涙って言うか、水っていうか、目から鼻からボトボトだったらしい。
すっげぇ、汚い・・・。
集まってくれた親戚に壮絶な姿をさらしてて、自分は綺麗に「泣いてる」と思ってたのだから幸せな奴。はぁ〜。

 何度も寝なおして、徐々に体の感覚が戻ってくると痛みも当然出てきます。
でも、私にとっては腰の痛みは想像していたほどではなかったように思います。と、言うか耐え易い?というか。
どんな感じ?って聞かれると、「体育界系の痛み。打撲して、その範囲が広い感じ。」これが、私の率直な意見ですが、もし、『金属バットで腰を殴打』されたとしたら、当然そこは打撲になるわけで・・・??
要するに、個人差はあるけれどそんな感じの痛みなんですけど、分かるでしょうか?(笑)
ちなみに、私はその日のうちにヨタヨタとですが、歩くことも出来ましたよ。
体より、むしろ問題は頭で、ボ〜っとし続けてボケた頭でその日に書いた日記や手紙は悲惨な出来映え。(笑)
先生にも「元気ですね?」って驚かれたけれど、元気っていうか今から思えばボケてたんじゃないのか?私。

  こぼれ話し その4
 実は、麻酔注射される前になんと私は居眠りをしてしまったらしい・・・。
まだ、麻酔してないのにすやすやと眠る私を見て、麻酔医はびっくり。「あっちゃん!」っと必死で起こしてくるからも〜。
どうせ眠らされるんやから、寝かせとけ!起こすな!
と、いうような文句を、目覚めてすぐたくさんの親戚の前で言ったようです。・・・・・・私って。
さらに、後で先生が部屋に来て、くすくす笑うからなぜ笑うのか聞くと、
「あっちゃん、目が覚めた時ちょっとあばれた」
ガ〜ン。どうあばれたのか、怖くて聞けなかった・・・。
後でお姉ちゃんが聞いてみると、寝返りもうてないと思ってた私は、その時突然起きあがろうとしたらしい・・・。
って言うか、出来もしないくせに。(笑) 
びっくりした先生達は慌てて押さえつけたらしいです。
その時なんか口走ってたらどうぴよ、私。 
「うらぁ〜!」とか・・・。いや、それはないと思うけども。(ーー;)




 F入院・その後 

 その後は役目も果たし、経過をみるだけなんでどっちかっと言うと退屈です。
腰は痛いけど、痛みは日に日に取れていきましたからね。
2〜3日はさすがに動きも制限されて、消毒もしみるけれど、ホントにあっという間に良くなるような感じでした。
あとは、退院と、退院から2週間後に念の為の健康診断があるだけ。
って言っても、なかには腰の痛みで夜眠れなかったという人もいるみたいで、そういう人は痛み止めもらって飲むのだとか。
確か、痛み止めがどれくらい効くか把握していたいから、飲むことになりそうなら入院中に飲んでみて。
と、先生に言われたような記憶がうっすら・・・。
とにかく、健康状態は出来うる限り気をつけてもらえるということです。

・・・・まぁ、退院って言っても、お姉ちゃんはまだ入院してるから、健康診断とかもお見舞いついでだから、ホントにやったのか
記憶にも残ってないけれど、やったんでしょう。
 ちなみに、腰が痛くて一番嫌な思い出は、お母さんとお姉ちゃんのお見舞いに行った時、雨が降りそうで傘を持ってたんだけど
後ろを歩いてるお母さんのかさの先が、ふとした瞬間に「トン!」って腰に当たってしまって・・・。
ギャー!!
っていうほど、痛くなかったけどびっくり痛いって言うのでしょうか?
それ以後しばらくお母さんが後ろを歩いているだけで、ビクビクしていた私でした・・・。(笑)

 
 さて、長々書いてしまいましたが、つたない文章でちゃんと伝わっているのか少し不安・・・。
この時は、この移植さえ終わればお姉ちゃんは大丈夫!なんて気楽に考えていたので、なんとなく気楽な思い出が多いです。
でも、私にとっては、危険は骨髄移植の方が大きいかもしれないけれど、なんとなく楽だったって感じがしています。
とにかく、骨髄移植の時は、緊張していたのもあるのか、ないのか、「苦痛」っていう経験がほとんどないような気がするからです。
(もちろん、不安はいっぱいあったんだろうけど。)
痛くないように、苦しくないように、嫌な思いをしないように・・・と、病院側の配慮に感謝の気持ちがとても大きい。
ってこれは、病院や、担当の先生にもよるのでしょうけどね。
でも、移植を行っている病院であれば、骨髄移植の経験も、少ないとこでもそれなりにはあるだろうから、先生や看護婦さんがドナーの
状況をよく把握していると思います。データも多いだろうから、大抵のことは分かるんだろうし。
問題の全身麻酔も、必ず麻酔専門医が立ち会うことになっているし、危険がないとは言えないだろうけど、担当の先生の言葉を借りるならば
『自宅でテレビを見ている時に、飛行機が我が家に落ちてくる可能性よりずっと低い』そうです。

 ただ、バンクを通した場合の、最終同意へ行くまでの道のりについては、私は全く分かりません。
それに、患者が家族の場合とはきっとまた、色々違うのでしょうね。
バンクでドナーになられた方がご自分の体験なんかを教えていただけるとありがたいです。
そうしたら、もっともっと詳しい骨髄移植のドナーの話しが、出来ると思うのです・・・。